予防という名の防波堤
心理職をしていると、初期の頃からぶつかる大いなる矛盾があります。それは、心理職という仕事が忙しければ忙しいほど悩みを抱えている人がいるのだから、仕事は暇なのが本当は良いというものです。暇な方が良いけれども、暇だと仕事が出来ません。それでは、生活にも困ってしまいます。なかなか難しい仕事だなと思ったりもしていました。
しかし、それはあくまで狭い範囲でのカウンセラーの仕事しか見ていない結果です。私自身は、元々は予防的な心理教育の考え方が好きで、専門の一つともしてきました。
この予防的心理教育は、今は、メンタルヘルスを大切にしようという言い方で一般には広がってきているように思います。
予防には、一次予防、二次予防、三次予防という考え方があります。
一次予防とは、問題が起きる前に、心の回復性や弾力性(レジリエンス)を高めるための取り組みです。例えば、学校や職場で「ストレスマネージメント」のワークショップを開いたり、日常的にマインドフルネス(今この瞬間に意識を向け、評価や判断をせずに「ありのまま」の経験を受け入れる心の状態のことでストレス低減にも効果があるとされる)を習慣づけたりするもの。波が来る前に、防波堤を築くイメージですね。早めに備えるんです。
こうして、悩みの芽を摘むことで、結果的に「忙しいカウンセリングルーム」が少し空く余地が生まれるのかもしれません。
次に二次予防。これは、問題の兆しが見えた段階で、早期に介入するもの。風邪の初期症状で病院に行くような感じです。カウンセリングの入り口として、短い相談会やセルフチェックツールを提供したり、同じ悩みを持つ仲間同士の「サポートの場」を作ったり。初期の段階で出来る対応策を話し合ったり。こうして、小さな波を大きくしない工夫が、心の海を穏やかに保ちます。私の臨床現場でも、二次予防の相談が、三次予防(深刻な回復支援)へ移行するのを防いでくれています。
そして三次予防は、すでに大波がきてしまった人への支援。心の傷が深くなった状態で、回復を支えるカウンセリング。病院で薬の力を借りながらということもあります。これらを組み合わせ、ゆっくりと心とその防波堤を修復していくのです。ここがカウンセリングの中心となっています。
この三つの予防を重ね合わせると、まるで一つの大きな防波堤のようですね。
今より一次・二次予防がしっかりしていれば、三次への流入は減るはずです。私たちは、個々のカウンセリングを丁寧に行うことを心がけていますが、もっともっと、一次予防と二次予防にも力を入れていきたいなと思っています。
あなたも、今日から小さな一次予防を試してみませんか? 朝の5分、深呼吸で「心の天気」を確認するだけでもいい。深呼吸以外にも、日記を書く、軽い運動をするなど、自分に合った方法で心のケアを始めてみましょう。波は必ず来ますが、防波堤があれば、きっと美しい海岸線が広がります。私たちみこと心理臨床処も、どんな心のケアが良いか、一緒に考えていきたいと思います。
(K.N)
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